ハリーポッターを伝えたい

1997年の秋だった。
アメリカで子ども時代を過ごしたという友人が私たちをthanksgivingに招いてくれた時、HarryPotterのペーパーバックを貸してくれた。「すっごく面白いし、多分、辞書無しで読めるから」「うん」
ホントは、大学の授業以来自分の楽しみのためにペーパーバックを読むなんて、今までして来なかったのだけど。
考えてみれば、自分の研究事柄(仕事ではなく、興味の対象)に関する医学書や専門書に比べたら読み易い訳で、しばらく本棚に飾られた後、眠るまえに少しずつ読むようにしたら、私にも読めた。

世界中のブームを受けて、日本でもものすごく売れたのはご存知の通り。シリーズで翻訳本を含め4億冊以上が世界中で販売されたという。

翻訳者であり、優れた国際会議の同時通訳者でもある松岡佑子氏が、夫の遺産である出版社静山社を引き継いで、ハリーポッターの本を出版したという点も特筆すべきか。出版とALSという難病の支援を行っている会社である。

日本語版が出たころは、おとなも子どももブームにのって、とにかくよく読んだものだと思う。長編ながら小さい子はおとなに少しずつ読んでもらっていたし、三、四年生も必死に頑張ってハリーのおはなしを自分で読んでいた。中高生はハリーやハーマイオニーやイギリスの寮制度のある魔法学校に夢中になったものだ。それが、映画が公開されDVDが普及してからというもの、だんだんと映画は見たけど本を読んでいないという子どもが年々増えるように思う。
平成に生まれて、ハリーポッターを知らない子ども時代なんて、なんとも残念でならない。本には映画に出て来ない情報が山ほど有り、複雑な人間関係を知れば知るほど、映画を見た時の感動は深まるというのに。(映画と本では違う所を話し合うのも面白いものです)


私はいろんな幸運が重なって、この12年の間に松岡佑子さんという方に何度かお目にかかることも出来たし、直接おはなしを伺ったり、静山社を見学することも出来た。その経験からこの作品への愛や理解はますます深まったし、自分の子どもにだけではなく、たくさんの子どもたちにもそれを伝えようとして来たつもり。でも、力不足ですね。なかなかブームが去ることを食い止められません。

また、物語りを通じて一時期では有ったものの文学ファンとかファンタジーマニアのような人と出会ってお話しする機会も得られ、文学を追究する人の熱意にふれることができた。不思議な体験。上には上が居る、そう思わされたことも何度も。あの厚い本を買って帰ってその日か翌日には読了している人が世の中にはいたりするのだ。(私はもったいなくてブレーキをかけてしまうタイプ)

今、干支が一周して振り返るに、なんとかしてハリーポッターの本をブームで終わらせてはならないと思う。子どもたちにハリーをきっかけにして複雑な人間関係とたくさんの登場人物、たくさんの価値観の入り交じったハリーポッターの世界を頑張って最後まで読んでもらい、長編を読む面白さに気が付いて欲しいと思うのである。

註:論争を呼んだ誤訳については、wikipediaに詳しいので参照のこと。

ハリーポッターのペーパーバックは近頃古本にたくさん出ているようだ。イギリス版とアメリカ版で単語の使い方がちょっと違うので正直言ってアメリカ碁の方が私には読み易い。寝るまえにちょっと読んでみるのはどうでしょう?辞書を引かないでとりあえず頑張る(と、最後まで行くとは、先の友人の助言)